考察

貧困層にお金を配っても、目に見える結果が出にくい原因

以下ケルシー・パイパー氏のコラム 要約

正直、驚きました。
「困っている人にはお金を配ればいい」。私はずっと、これが高所得国の慢性的な貧困にも効くと思ってきました。災害時に現金が一番役立つのは事実だし、低所得国ではうまくいった例も多い。だからアメリカでも、毎月数百〜1000ドル配れば、健康や心の安定、仕事、子どもの成長にはっきり良い変化が出るはずだ——そう信じていたのです。

ところが現場のデータは違いました。各地で行われたベーシックインカムのテスト(=少人数に期間限定でお金を配って、何が変わるか確かめる取り組み)や検証結果を追ううちに、私は考えを改めざるを得ませんでした。ホームレスの人、新生児の母親、生活が苦しい家庭……対象は広いのに、現金を配り続けても、心の調子、ストレス、体の健康、子どもの発達、仕事の状況に、長く続く大きな改善がほとんど見えないのです。働く時間は少し減りますが、それでストレスが下がったり、生活満足度が上がったりはしない。しかもこれは一つ二つの例外ではなく、同じ傾向が何度も出ています。

具体的にはこうです。新生児の母親に月333ドル(比べる相手は月20ドル)を配った研究では、育児への支出は増え、母親の労働時間は少し減りましたが、母子の健康やストレス、子どもの発達に、はっきりした差は出ませんでした。カリフォルニア・コンプトンで月500ドルを2年配った取り組みでも、働く量、心の調子、家計の安定、食べ物の確保に目立つ改善はなく、むしろ給付以外の収入が月約333ドル減ってしまう傾向が目立ちました。さらに月1000ドルを3年配った大規模な検証でも、最初に下がったストレスはすぐ元に戻り、健康・睡眠・教育・仕事・子どもと過ごす時間にも差が出ない。ホームレスへの給付では、月1000ドルまとまった一時金+月500ドルを配っても、住まいを確保できた人の割合は、少額(50ドル)しか受け取らない人たちとほぼ同じでした(だいたい43〜48%で横並び)。

誤解しないでほしいのは、受け取った人が浪費したわけではないことです。お金は家賃や交通、食費、育児など生活の土台に使われています。直接の聞き取りでは、安心感や希望が生まれたという声も多い。それでも、使い方が人によってバラバラなので、平均すると健康や学び、仕事のような「数字で測る項目」を大きく一方向に動かす効果が見えにくいのだと思います。

では「現金は意味がない」のか。私はそうは考えません。むしろ結論は、現金は“狙いどころを絞って深く使う”べきだ、です。たとえば妊娠期DVから抜け出すとき刑務所を出た直後突然の不幸や災害の直後のように、人とタイミングがはっきりしている場面では、現金が短期の安全と選択肢を生み、結果として測れる改善につながる可能性が高い。実際、ロサンゼルスではDVの再発が抑えられたという重要な兆しも出ています(同時に、平均では心の調子が悪化した時期もあり、過度な楽観は禁物ですが)。

もう一つ、私が痛感したのは伝え方の偏りです。小人数での“良い話”はニュースになりやすい一方、**大勢を対象にした厳密な検証で「効果がほとんど出ない」**という結果は、あまり取り上げられません。でも、厳密な検証は必要です。効きにくい方法に回るお金を、効く方法に振り向ける判断材料になるからです。

今の私の結論はこうです。現金だけでは、慢性的な貧困は動かない。だからこそ、教育・医療・住宅といった制度づくりを土台にしつつ、現金は「必要な人に、必要なタイミングで」ピンポイントで届ける。効果が出たら広げ、出なければ正直にやり方を変える。派手さはありませんが、それが貧困との戦いを前に進める一番の近道だと、今は確信しています。

三行のまとめ
・過去の実験では、数百〜1000ドル/月の現金給付を行っても、メンタル・健康・就業・子の発達などに持続的な改善がほぼ見られなかった
・受給者は決して無駄遣いしているわけではなく、家賃・交通・食費・育児など基礎支出に充てているが、その効果は統計に現れにくい。
・慢性的貧困の解決には、現金だけでなく妊娠期やDVなどのターゲットを絞った給付+教育・医療・住宅といった制度整備が必要、という結論。

上記記事に対する反応

「一定額を超えないと効果が出ない」のだろうか? 月1000ドルでも、測れる改善がほとんど出ないのはやっぱり不思議だ。

毎月500ドル赤字の家庭に333ドル足しても、借金や身内・慈善への頼みが少し減るだけで、生活が良くなるところまでは行かない。

↑支給額をもっと増やすと、研究費がかさみ対象者数が減るうえ、終了後に元の制度に戻れないリスクも出てしまう。

地域の物価差を考慮に入れないと。家賃が高い都市での「月1000ドル」は、安い地域の「月1000ドル」とは重みが全く違う。

乳児のいる家庭に月333ドルでは全然足りない。空腹の子に少し食べ物を足しても、空腹は続くのと同じだ。

月1000ドルを足しても状況が変わらない貧困層は、もともと収入が極端に低い。状況の悪化は止められても、生活を引き上げるには届かない。

必要量の1割だけ電気を流したところで、機械は動かない。お金も同じで、基礎を満たす水準に届かないと目に見える変化は出にくい。

本当の貧困は恐怖だ。今の生活が安全だと感じられるまでは、少額上乗せしたところで手応えを感じにくい。「欠乏のメンタル状態」が判断を鈍らせる。

誰も「中流並みの生活」を期待していたわけではない。せめてストレスが少し下がるなどの変化はあると思っていた。そこがほぼ測れなかったのは意外だ。

引用元:https://www.reddit.com/r/TrueReddit/comments/1mus6jz/giving_people_money_helped_less_than_i_thought_it/

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